海外旅行

【薬剤師が教える】知っておくと得する海外旅行と薬の関係

2017年11月3日

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最終更新日:2020年1月16日

海外旅行の必需品の一つ、「薬」。
普段から使っている薬がある人はもちろんのこと、旅行先での突然のトラブルや不調に対応するために、備えておきたいものの代表と言えます。

この記事では、海外旅行に関係する「薬」の事情について、
・どういった薬を海外旅行に持って行くべきか?
・日本からの持ち出しに規制がある薬
・手荷物検査、預入荷物に注意が必要な薬
・薬の証明書と英文説明書
・海外で薬を飲むタイミング
といった観点で、基本事項からコアな情報に至るまで解説しています。

常備薬として何を持って行くべきか?

まず、海外旅行に持って行くべき薬の種類にはどのようなものがあるでしょうか。
普段から持病があり、通院して薬を処方されている方の服用薬はもちろんですが、そうでない場合でも処方せんなしで購入できる一般用医薬品(OTC)を常備薬として持って行くということも多くあるかと思います。具体的な種類としては、

・総合感冒剤(パブロン、ルル、エスタックイブなど)
・整腸剤(新ビオフェルミンSなど)
・下痢止め(正露丸、ストッパなど)
・酔い止め(トラベルミンなど)
・痛み止め(ロキソニンSなど)

このあたりが代表的な種類の薬になるでしょうか。
急な風邪や発熱に対応するための総合感冒剤、旅行先で食べ物や水が合わないことで胃腸の調子が崩れる可能性を考えて整腸剤や下痢止め、飛行機や渡航先でのバスやタクシーなど公共交通機関での乗り物酔いに対応する酔い止めなど、一通りあれば安心かと思います。

これらの薬のほとんどは、一般用医薬品でも通常の処方薬でも、大量(およそ1ヶ月分の処方量が目安と言われる)でなければ通常事前の申請などは不要です。

海外への持ち出しに手続きや書類が必要な医薬品

医薬品の規制は国によってさまざまですので「日本では使われているが海外に持ち込めないもの」「海外では使われているが日本に持ち込めないもの」どちらも存在します。
種類として多くはありませんが、以下のように海外へ持ち出す際に申請が必要になる医薬品もあります。

麻薬は渡航前に手続きして「許可証」が必要

医薬品の中には医療用麻薬として用いられているものがあり、これらの持ち出しには「許可証」が必要になります。

麻薬及び向精神薬取締法
第十七条  麻薬輸出業者でなければ、麻薬を輸出してはならない。ただし、本邦から出国する者が、厚生労働大臣の許可を受けて、自己の疾病の治療の目的で携帯して輸出する場合は、この限りでない

申請先は各地域の地方厚生局になり、許可証の発行には最低2週間はかかるので注意が必要です。

参考リンク
厚生労働省地方厚生局麻薬取締部 「麻薬取締官」ウェブサイト
左下の「許認可申請手続」→「麻薬の携帯輸出入許可申請について」から、届出用紙や申請における注意点などが確認できます。

申請が通ると、日本語で記載された「麻薬携帯輸出(輸入)許可書」と英語で記載された「麻薬携帯輸出(輸入)許可証明書」が発行されます。

医療用麻薬は、当然ですが全てが処方せん医薬品であり、病院または調剤薬局で交付されます。
麻薬であることを知らずに使っているということは少ないとは思いますが、継続して使っている場合などは改めて医師や薬剤師から麻薬であることの説明をされないこともありますので、渡航前に念のため自分が飲んでいる薬の規制区分について医師や薬剤師に確認することが望ましいと言えるでしょう。

なお、医療用麻薬はがんによる痛みを軽減する目的で使用されることが多いです。
それ以外の疾患で使う場合で注意が必要なのは咳止めとして用いられる「コデインリン酸塩」「ジヒドロコデインリン酸塩」です。
コデインリン酸塩は散剤の原末と10%散と錠剤の20mgが麻薬の指定となっていますが、散剤の1%散と錠剤の5mgは麻薬ではありません。
ジヒロドコデインリン酸塩も、散剤の原末と10%散は麻薬指定ですが、1%散になると麻薬の規制を外れます。
処方の数としてけして多くはありませんが、服用する薬の量を少なくするためにあえて麻薬指定の規格が処方される場合もありますので、念のため注意しておきましょう。

向精神薬は総量以内なら手続き不要

向精神薬は、「精神に向かう薬」と書く通り、脳(中枢神経系)に作用して精神に働きかける薬のことです。
そのため、広い定義では抗うつ薬や抗精神病薬を含みますが、法律上の規制の対象となる「向精神薬」に指定されているかどうかとは必ずしも一致しません。
法律の規制上の向精神薬は、抗不安薬(いわゆる安定剤)、睡眠導入剤、抗てんかん薬などの一部が当てはまります。

麻薬及び向精神薬取締法
第五十条の十一  次に掲げる者でなければ、向精神薬を輸出してはならない。
一  向精神薬輸出業者
二  本邦から出国する者のうち、自己の疾病の治療の目的で向精神薬を携帯して輸出する者であつて厚生労働省令で定めるもの
三  向精神薬試験研究施設設置者であつて、学術研究又は試験検査のため向精神薬を使用する者に向精神薬を輸出するもの
四  その他厚生労働省令で定める者

向精神薬を海外旅行に持って行く場合は、それぞれの成分によって申請が必要になる総量が決められていて、この量を超える場合にのみ処方せんの写しや医師の診断書といった書類が必要になります。
注射剤はその総量によらず書類が必要ですが、通常は当てはまらないかと思います。

対象となる成分とその総量は、各地方の厚生局のホームページなどに記載されています。

携帯輸出入にあたり証明書類の携帯が必要な向精神薬の量について/近畿厚生局

向精神薬の携帯輸出入について/北海道厚生局

数が多くて非常にわかりづらいですが、常用量で用いた場合の1ヶ月分~3ヶ月分程度が概ねの総量に指定されています。
そのため、通常多くある1週間~2週間程度の海外旅行なら、ほとんどの場合は特に事前の申告や書類がなく持って行くことができると考えて差し支えないでしょう。
指定されている向精神薬の成分と商品名、各剤形での制限となる量は以下の通りです。(2017年11月現在)
※50音順。オレンジ色背景はおそらく使用している人が多い製品です。

第1種向精神薬

成分の一般名 成分の英語名 制限量 製品名 製品単位での制限量
メチルフェニデート Methylphenidate 2.16g リタリン散1%
リタリン錠10mg
コンサータ錠18mg
コンサータ錠27mg
コンサータ錠36mg
216g
216錠
120錠
80錠
60錠
モダフィニル Modafinil 6g モディオダール錠100mg 60錠

第2種向精神薬

成分の一般名 成分の英語名 制限量 製品名 製品単位での制限量
アモバルビタール Amobarbital 9g イソミタール原末 9g
ブプレノルフィン Buprenorphine 80mg ノルスパンテープ5mg
ノルスパンテープ10mg
ノルスパンテープ20mg
レペタン坐剤0.2mg
レペタン坐剤0.4mg
16枚
8枚
4枚
400本
200本
フルニトラゼパム Flunitrazepam 60mg サイレース錠1mg
サイレース錠2mg
ロヒプノール錠1mg
ロヒプノール錠2mg
60錠
30錠
60錠
30錠
ペンタゾシン Pentazocine 18g ソセゴン錠25mg
ペルタゾン錠25
ペンタジン錠25
72錠
ペントバルビタール Pentobarbital 4.5g ラボナ錠50mg 90錠

第3種向精神薬

成分の一般名 成分の英語名 制限量 製品名 製品単位での制限量
アルプラゾラム Alprazolam 72mg ソラナックス錠0.4mg
ソラナックス錠0.8mg
コンスタン錠0.4mg
コンスタン錠0.8mg
180錠
90錠
180錠
90錠
エスタゾラム Estazolam 120mg ユーロジン散1%
ユーロジン1mg錠
ユーロジン2mg錠
12g
120錠
60錠
エチゾラム Etizolam 90mg デパス細粒1%
デパス錠0.25mg
デパス錠0.5mg
デパス錠1mg
9g
360錠
180錠
90錠
オキサゾラム Oxazolam 1.8g セレナール散10%
セレナール錠5
セレナール錠10
18g
360錠
180錠
クアゼパム Quazepam 900mg ドラール錠15
ドラール錠20
60錠
45錠
クロキサゾラム Cloxazolam 360mg セパゾン散1%
セパゾン錠1
セパゾン錠2
36g
1mgを360錠
2mgを180錠
クロチアゼパム Clotiazepam 900mg リーゼ顆粒10%
リーゼ錠5mg
リーゼ錠10mg
9g
180錠
90錠
クロナゼパム Clonazepam 180mg ランドセン細粒0.1%
ランドセン細粒0.5%
ランドセン錠0.5mg
ランドセン錠1mg
ランドセン錠2mg
リボトリール細粒0.1%
リボトリール細粒0.5%
リボトリール錠0.5mg
リボトリール錠1mg
リボトリール錠2mg
180g
36g
360錠
180錠
90錠
180g
36g
360錠
180錠
90錠
クロバザム Clobazam 2.4g マイスタン細粒1%
マイスタン錠5mg
マイスタン錠10mg
240g
480錠
240錠
クロラゼプ酸 Clorazepate 900mg メンドンカプセル7.5mg 120cap
クロルジアゼポキシド Chlordiazepoxide 1.8g コントール散1%
コントール散10%
5mgコントール錠
10mgコントール錠
バランス散10%
バランス錠5mg
バランス錠10mg
180g
18g
360錠
180錠
18g
360錠
180錠
ジアゼパム Diazepam 1.2g セルシン散1%
セルシンシロップ0.1%
2mgセルシン錠
5mgセルシン錠
10mgセルシン錠
ホリゾン散1%
ホリゾン錠2mg
ホリゾン錠5mg
ダイアップ坐剤4
ダイアップ坐剤6
ダイアップ坐剤10
120g
1200mL
600錠
240錠
120錠
120g
600錠
240錠
300本
200本
120本
ゾピクロン Zopiclone 300mg アモバン錠7.5
アモバン錠10
40錠
30錠
ゾルピデム Zolpidem 300mg マイスリー錠5mg
マイスリー錠10mg
60錠
30錠
トリアゾラム Triazolam 15mg ハルシオン0.125mg錠
ハルシオン0.25mg錠
120錠
60錠
ニトラゼパム Nitrazepam 450mg ネルボン散1%
ネルボン錠5mg
ネルボン錠10mg
ベンザリン細粒1%
ベンザリン錠2
ベンザリン錠5
ベンザリン錠10
45g
90錠
45錠
45g
225錠
90錠
45錠
ニメタゼパム Nimetazepam 150mg エリミン錠3mg
エリミン錠5mg
50錠
30錠
バルビタール Barbital 18g バルビタール原末 18g
ハロキサゾラム Haloxazolam 300mg ソメリン細粒1%
ソメリン錠5mg
ソメリン錠10mg
30g
60錠
30錠
フェノバルビタール Phenobarbital 6g ヒダントールD配合錠
ヒダントールE配合錠
ヒダントールF配合錠
フェノバール原末
フェノバール散10%
フェノバール錠30mg
ルピアール坐剤25
ルピアール坐剤100
ワコビタール坐剤15
ワコビタール坐剤30
ワコビタール坐剤50
ワコビタール坐剤100
アストモリジン配合胃溶錠
アストモリジン配合腸溶錠
トランコロンP配合錠
720錠
720錠
720錠
6g
60g
200錠
240本
60本
400本
200本
120本
60本
300錠
300錠
400錠
フルジアゼパム Fludiazepam 22.5mg エリスパン細粒0.1%
エリスパン錠0.25mg
22.5g
90錠
フルラゼパム Flurazepam 900mg ダルメートカプセル15 60cap
ブロチゾラム Brotizolam 15mg レンドルミン錠0.25mg
レンドルミンD錠0.25mg
60錠
60錠
ブロマゼパム Bromazepam 450mg セニラン細粒1%
セニラン坐剤3mg
セニラン錠1mg
セニラン錠2mg
セニラン錠3mg
セニラン錠5mg
レキソタン細粒1%
レキソタン錠1
レキソタン錠2
レキソタン錠5
45g
150本
450錠
225錠
150錠
90錠
45g
450錠
225錠
90錠
ペモリン Pemoline 6g ベタナミン錠10mg
ベタナミン錠25mg
ベタナミン錠50mg
600錠
240錠
120錠
マジンドール Mazindol 90mg サノレックス錠0.5mg 180錠
メダゼパム Medazepam 900mg レスミット錠2
レスミット錠5
450錠
180錠
ロフラゼプ酸エチル Ethyl loflazepate 60mg メイラックス細粒1%
メイラックス錠1mg
メイラックス錠2mg
6g
60錠
30錠
ロラゼパム Lorazepam 90mg ワイパックス0.5
ワイパックス1.0
180錠
90錠
ロルメタゼパム Lormetazepam 60mg エバミール錠1mg
ロラメット錠1mg
60錠

フルニトラゼパムはアメリカ・カナダ・オーストラリアに持ち込み不可

これらの向精神薬の中で最も注意しなければならないのは「フルニトラゼパム」でしょうか。
「ロヒプノール」「サイレース」という商品名で不眠症治療に用いられていますが、効果時間が長いことなどから犯罪に用いられることもあり、アメリカ・カナダ・オーストラリアでは持ち込みが禁じられています。
治療目的であっても持ち込むことができませんので、使っている場合には渡航中だけ別の薬に処方を切り替えてもらうなどの対応が必要になります。

覚せい剤原料は病気の治療でも持ち出しできない

現在、医薬品として処方される可能性があるのはパーキンソン病治療薬として使われる「エフピーOD錠(セレギリン)」(と、そのジェネリック医薬品)ですが、覚せい剤原料は病気の治療目的であっても携帯による輸入・輸出が認められていません。
(2020.1.16追記)
2019年12月に販売開始となった小児のADHD治療薬である「ビバンセカプセル(リスデキサンフェタミン)」が、覚せい剤原料に指定されています。
エフピーOD錠と同様に海外への持ち出しは禁止されています。

そのため、これらの薬を服用中に海外旅行に行きたいと考える場合には一時的に処方を変更するなどの対応が必要になります。
医師に相談して、どうするかを検討するということになるでしょう。

覚せい剤取締法
(輸入及び輸出の制限及び禁止)
第三十条の六  覚せい剤原料輸入業者が、厚生労働省令の定めるところにより厚生労働大臣の許可を受けて、その業務のため覚せい剤原料を輸入する場合のほかは、何人も、覚せい剤原料を輸入してはならない。
2  覚せい剤原料輸出業者が、厚生労働省令の定めるところにより厚生労働大臣の許可を受けて、その業務のため覚せい剤原料を輸出する場合のほかは、何人も、覚せい剤原料を輸出してはならない。

なお、咳や鼻づまり(鼻閉)などに使われる「エフェドリン」「メチルエフェドリン」も覚せい剤原料の対象となっている成分ですが、これらは10%以下の濃度だと覚せい剤原料の規制を外れます。覚せい剤原料として取り扱う必要があるのは製薬企業や薬局などが医薬品を製造する場合となりますので、病院から処方される薬、あるいは一般用医薬品として購入する場合には気にする必要はありません。

覚せい剤原料ではないが「プソイドエフェドリンがタイに持ち込み不可」に注意

一つ注意点として挙げられるのは「プソイドエフェドリン」という成分です。
プソイドエフェドリンは、エフェドリンやメチルエフェドリンと同じく鼻炎、鼻づまりなどに用いられる成分で、これ自体は覚せい剤原料ではなくほとんどの国で規制の対象外ですが、タイに持ち込み禁止です。
病院から出される処方せん医薬品でプソイドエフェドリンを含む薬は「ディレグラ配合錠」のみです。
注意が必要なのは、一般用医薬品にプソイドエフェドリンを含む風邪薬が多くあるということです。
例:エスタック鼻炎カプセル、コルゲンコーワ鼻炎持続カプセル、コンタック600プラス、パブロン鼻炎カプセルS、ベンザブロックLなど

一般用医薬品は「エスタック」「パブロン」といった頭の商品名が同じでも、その後に続く数字やアルファベットによって含まれる成分がさまざまです。
「風邪薬をタイに持って行く時には注意が必要」と意識しておき、成分表示を確認したり、薬剤師に相談するなどして対応しましょう。

手荷物の規制は他と同じ。申告すれば特別に機内持ち込みも可能

医薬品の場合も、手荷物としての取り扱いはその他のものと基本的には変わりなく、通常の機内持ち込みの規制内であれば、特に医薬品であることの申告などは必要ありません。

液剤は通常の規制を超えても申告でOK

例えば注意が必要なものの代表として「液体物の機内持ち込み」がありますが、国際線では「1個あたり100mL(g)以下の容器に入れて、容量が1リットル以下のジッパー付き透明袋に入れる」ということが必要です。
医薬品として液剤を持ち込む場合でも、この条件をクリアできるなら申告の必要はありません。
また、この量を超える場合であっても、医薬品であることを申告すれば機内持ち込みが可能です。

インスリンなどの注射剤は凍結を避けるために機内持ち込みすべき

糖尿病治療用のインスリンは、凍結すると結晶が変化・析出するなどして作用時間に影響を与える可能性があります。預け入れ荷物としてしまうと、貨物室の気温が低く凍結してしまう可能性があるため、機内持ち込みにしましょう。
通常、インスリンは開封前は冷蔵庫(2~8度)に保管する必要がありますが、申告すれば保冷剤も含めて機内持ち込みできます。
40度近い高温でなければ常温でも変性は起きづらいと考えられていますので、温度管理されている客室内であれば大きな問題にはなりづらいと言えます。

薬局にもよりますが、現在でも薬は紙の袋に入れて渡されるところが一般的です。海外旅行の場合、そのまま持ち運ぶよりは、中身が確認しやすいようにジップロックやピルケースなどに移すのがお勧めです。手荷物検査の際に申告する場合も、ジップロックに薬品名を記載したり、成分名や薬効を記載した紙を一緒に入れておくとスムーズで、トラブルを避けやすくなるかと思います。

海外の空港などで使える英語の書類たち

医薬品であっても、ほとんどのものは通常の荷物とあまり区別せずに取り扱うことができます。
しかし海外旅行においては「万が一海外で何か聞かれたら、どう答えていいかわからない」という不安がある人も多いのではないかと思います。
日本では当然日本語で申告できるので話も通じやすいですが、海外ではそうもいきません。
渡航先で万が一のトラブルを避けるために、あらかじめ英語の書類を用意しておくと安心です。

英文薬剤証明書(英文投薬証明書)

英文薬剤証明書(英文投薬証明書)は、その医薬品を持ち込むことが自分の病気の治療のためであることを証明するための書類です。
最近はテロ対策等で手荷物検査が厳しいことが多く、特に注射剤などはその使用目的や中身を疑われるケースが多いため、あらかじめ所持しておくことが望ましいかと思います。

英文薬剤証明書は公文書ですが、明確に規定されたフォーマットはありません。
また、海外での受診時に使うような英文診断書と異なり、発行に料金が設定されていることは少ないようです。
頻繁に作成するものでもないと思われますので、病院・薬局によってはサービスとして行ってくれるところもあるかと思いますが、元々英語に堪能な医師・薬剤師ばかりではありませんので、作成には時間がかかることも十分考えられます。
早めの準備が必要だと言えるでしょう。

基本となるフォーマットは、地域の薬剤師会や製薬会社で案内が出されています。

med.sawai.co.jp

ホームページで案内されている中では沢井製薬のものが最もわかりやすいかなと思いますが、証明書に記載される内容としては
・処方元の医療機関、または調剤した薬局名
・日付
・使っている薬品名、薬効、用法用量
・その他の注意事項(麻薬が含まれていないことの明記など)
・作成した医師、または薬剤師の署名
などが基本となります。

ある程度英語の知識があるのなら、あらかじめこれらの事項を記載した文書を作成しておいて、医師・薬剤師の確認を受けてもらい署名してもらう、という方がスムーズかもしれません。

英語版くすりのしおり

実際の海外旅行では、英文薬剤証明書のようなしっかりとした公文書でなくても、英語で記載された薬の説明書があれば事足りるということも多いです。

この場合も、受診している病院または薬の交付を受ける調剤薬局に相談するといいでしょう。
病院で処方を行うオーダリングシステムや、調剤薬局で使用しているレセプトコンピュータによっては、英文の薬剤情報提供書を作成する機能を持っていることもあります。

もしもこれらの機能がなく、英語に対応できる医師・薬剤師がおらず作成を断られてしまった場合などは、一般社団法人くすりの適正使用協議会の「英語版くすりのしおり」が役に立ちます。

www.rad-ar.or.jp

ここ数年でも協力している製薬企業の数が増えて、かなり多くの薬についてカバーされるようになっています。
システムが英文での提供に対応していない病院や薬局では、患者様からの依頼にはこのページを利用していることが多いのではないかと思います。

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英語版くすりのしおりは、日本語・英語どちらでも検索できるようになっています。
右上のオレンジ部分「English 英語版くすりのしおり」から直接英語版のくすりのしおりを日本語で検索することもできますが、検索結果が英語になります。
日本語版のものを検索し、英語版があるかどうかを確かめる方が使いやすいかと思います。
日本語で検索する場合にも、画像の赤枠部分で英語版の有無による絞り込みを行うことができます。

例として、解熱鎮痛薬としてよく用いられる「ロキソニン錠60mg」を検索してみましょう。

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英語版のくすりのしおりがある場合は、検索結果に表示された薬品名の下に「英語版あり」という表記(画像赤枠参照)があり、ここをクリックすることで英語版のくすりのしおりを見ることができます。

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実際の「ロキソニン錠60mg」の英語版くすりのしおりを表示すると、このような形になります。
印刷用の表示にしたり、ワードファイルとしてダウンロードすることもできます。

英語版がない場合は先発品とジェネリックを横断して検索する

多くの薬はこの方法で直接英語版のくすりのしおりを手に入れることができますが、近年、使用量が伸びている「ジェネリック医薬品」(有効成分が同じで、価格の安い薬)の中には、英語版のくすりのしおりが存在しないこともあります。

例えばロキソニン錠60mgの場合、ジェネリック医薬品として24製品が存在します。(2017年11月現在)
「ロブ錠60mg」「ロキソマリン錠60mg」といった独自の商品名が付けられている製品もありますが、現在は、厚生労働省の通達によって基本となる製品名の付け方が決まっています。
成分名・剤形・含有量を表記し、最後にメーカー名を「」で付ける、というものがその命名法です。

ロキソニン錠60mgの場合、有効成分はロキソプロフェンナトリウム。
そのため、ほとんどのジェネリック医薬品はロキソプロフェンNa錠60mg「○○」という製品名になっています。

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ロキソプロフェンNa錠で検索した場合、検索結果はこのようになります。
「サワイ」「テバ」には英語版のくすりのしおりがありますが、「YD」「TCK」「アメル」にはないということがわかります。

この場合、製品の写真などは刻印が異なるためそのまま用いることができませんが、どれもロキソプロフェンを主成分とする薬であり、薬の働き(効能効果。英語版くすりのしおりで言う「Effects of this medicine」)や注意事項は基本的に同じなので流用できます。

現在ジェネリック医薬品を服用していてそのままでは英語版が見つからない場合には先発品の名前だと見つかることが多いです。この場合は、くすりのしおりの検索画面で「主成分で検索」を選び、薬の名前の先頭部分を入力してみましょう。
薬剤師に聞けば先発品の名前が何かはすぐにわかりますので、海外旅行の予定があって英語版くすりのしおりを探しているということを伝えて相談してみるといいでしょう。場合によっては、印刷や情報の加工なども行ってくれるかと思います。

渡航先で薬を飲むタイミングは個別に相談を

海外旅行中「いつ、薬を飲めばよいのか?」というところは不安になる点の一つです。
特に、ヨーロッパなど時差の大きい地域に向かう場合には、長い飛行時間のどこで飲むか、到着後日本時間で飲むべきか現地時間で飲むべきかなど、迷うことも多いかと思います。

これらの薬の服用タイミングをどうするべきかは、それぞれの薬によって大きく異なります。
例えば糖尿病の薬で、食事と必ずセットにしなければならない薬であれば、時間ではなく食事に合わせて服用することが必要です。
逆に、食事の影響をあまり受けず、時間で決めて飲んでしまって構わない薬も少なくありません。

滞在期間によっても、一旦現地時間に合わせて飲むタイミングを変えてしまうか、日本時間のままで飲むべきか、判断が異なる場合もあるでしょう。
治療の状況で医師や薬剤師の判断が変わる場合もありますので、一概にこうすればよいという判断は難しいです。

渡航先と滞在期間を伝えて、医師と薬剤師に相談してから判断することが望ましいと言えます。
特に、薬と食事との影響やそれによる副作用の可能性についてなどは、薬剤師の方が詳しいことが多いです。
専門職の力を借りて、安心して薬を飲むことができるように相談してみるといいかと思います。

まとめ

薬の存在は海外旅行を楽しく、安心なものにするのに欠かせないものです。
多くの医薬品は特に事前の手続きや申告の必要もなく海外旅行へ持って行くことができますが、法律上の規制区分や液剤・注射剤の取り扱いで一部注意が必要な薬があります。
医師・薬剤師と相談しながら、自分が飲む薬をしっかり把握して対応できるようにしておくとベストです。

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